僕は人生を巻き戻す

僕は人生を巻き戻す

重度の強迫性障害を患い「時間を巻き戻す」という儀式行為と、死へと向かう時間の
流れに恐怖を感じる強迫的な考えから逃れられないでいる主人公。献身的な精神科医
治療や家族のサポートに触れて自分にとって一番大切なものは何かを問い直し、
強い意志でもってみずから行動療法を進め回復していく姿を描くノンフィクション。


こういう精神的な疾患というのは脳の器質的な問題、もっと脳の「物質」としての
ケミカルな部分が作用するものだと自分としては考えているが、心の深い部分にまで
根を生やしその患者を支配している囚われた思考に光を当て、それを一度解体して
再構成していく営みも絶対的に必要となってくるのかもしれないと感じた。


もちろんそれには自分自身の中の抑圧されている無意識までも掘り下げて、それと
真正面から向き合う冷静さとそれを乗り越える強さが伴わなければならないのだが。


こちらの本のライターの息子さんも強迫性障害の患者であり、その経験にも
根付いた丁寧な取材と優しさを持つ視線によって良質なルポに仕上がっている。


老人と海 (新潮文庫)

老人と海 (新潮文庫)

こういう定番のものも少しずつ読んでいく。ある一人の老いた漁師と大魚との
格闘を通じて強い意志を持った漁師と厳然とした自然との対話を描いている。


老人のとらえた大魚が初めは獲物としての敵という存在であったが、大魚の放つ
血の臭いを追ってやってくる鮫に応戦する内にともに戦う仲間としての意識が
芽生えてくる。


あえて現代の舞台にこの物語を置き換えるならば、仕事をすることで追求している
利益とその喪失により、利益を求めての活動そのものの意義について向き合うよう
になり、そこに新たな価値を見いだしていくということだろうか。


そう考えると何かを得るために血を流し骨をむき出しにするような思いをして
別の何かを捨て去ることになったとしても、自分の中の心の動きや環境との対話
には大きな意味があるのだという説話としての価値を持ち始めるだろう。